「島だから、田舎だからと言ってダサいと思われたくないじゃないですか」2020年4月から江田島に地域おこし協力隊のプロモーション推進員として着任するかたわら、グラフィックデザインを中心にWEBデザインや販促物制作を手掛ける個人事業としての『yucaii(ユカイ)』を立ち上げた牛尾さんは、笑顔でそう語ってくれた。
牛尾さんは江田島から海の向こうに見える、政令指定都市の広島市出身。東京からUターンでなく、どうして広島を通り越して江田島にやってきたのだろうか。
東京都内にあるアパレル企業でカタログ制作の仕事をメインに活躍していた牛尾さん。家庭の事情で広島へのUターンを考えなくてはいけない状況になったのだが「Uターンは嫌だけど、家族のそばにいてあげたい」と消極的に帰ることを考えていた。そんな折、銀座の職場から歩いて行ける有楽町にIターンやUターンを支援する『NPO法人 ふるさと回帰支援センター』があることを知り、「近くだから行ってみるか(帰るかどうかはわからないけど)」この一歩目が現在に繋がった。
訪問した際に担当の方から「海が好きなんですか?でしたら瀬戸内の島とかどうでしょう」と紹介されたのが、江田島市をはじめ大崎上島などの広島県の島嶼部。「たまたまバックパッカーみたいな恰好で行ったからですかね。実際、野生のイルカと泳ぐドルフィンスイムにはまっていた時期だったので、海が近いことはまんざらでもなかったんです」広島の島嶼部には詳しくなく、そんな島もあったな程度の知識でしたが、担当者の紹介で移住視察片道交通費支援制度を利用して江田島訪問をはたします。
このときは広島市へのUターンも含めて、仕事次第と考えていました。そんな考えの中での江田島訪問。制度利用の書類を市役所に提出しに行ったとき、職員の方から「地域おこし協力隊に興味ないですか?ちょうど募集しているんですよ」牛尾さんはその時まで、地域おこし協力隊の制度をまったく知らなかったが、「合格したら来てみようかな」と思い、その通り合格。晴れて江田島への移住が決まりました。
「田舎コンプレックスというか、地元が嫌だと言って東京に出ているので、あまり帰りたくなかったんですよ(笑)。なのに、気づいたら自然を求めて海に潜ったりしてたし、地元よりだいぶ自然が多いところに来てましたね(笑)」
2020年の4月といえば新型コロナウイルスが全国的に広がり始め、江田島市でも初の感染者が出た時期。そんな『江田島』での生活が始まりました。「正直、最悪のスタート。外に出ては駄目という状況下で、やろうと思っていたことがことごとくできないし…私生活でも会食ができない。知り合いもいない、当然友達もできない。寂しかったですね」とその頃を振り返る。そんな環境下で『今できることをする』と気持ちを切り替えたこと、そして二人の友人とのつながりがその後の活動に影響をしていきます。
地域おこし協力隊としてのミッションは、江田島市の認知度・知名度をあげること。外に出ていくことがすべてではないと思考を切り替え、それまで市が苦手としていた情報発信に力を入れました。「まずは県内の認知度をもっと上げようと思い、ニュース配信の強化に着手しました。プレスリリース配信サイトを使い、とにかく情報を発信していく。公的なものはプレスリリースとして、民間に寄ったものはキュレーションサイトやSNSを使って発信していきました。江田島に来る前は、検索エンジンに『江田島』と入れてもニュースが数か月前のものとかしか出ていなかったので、そこをまずは変えようと。コロナによって取材する素材が無くなったローカルメディア、そこを狙おうと思ったんです。実際に、地元テレビ局やラジオ局などには効果があったと思います。今では『江田島』と検索エンジンに入れたら最新のニュースがたくさん出てきますよ」
活動を続けられたのは、友人とのつながりも大きかった。一人目は関東在住の仕事のパートナーであり、親友。『将来一緒に何かできると良いね』という話をしていた中で、江田島市に来てすぐに『yucaii(ユカイ)』という屋号で事業を始めた。パートナーは牛尾さんが本気でダンスに取り組んでいた時からの友人で、長年グラフィック・WEBデザイナーとして働いている。「ダンスもそうなのですが、DJやカメラマン、芸術家、デザイナー、動画クリエイターとかそういう方面で活躍している人が周りに多くて。私には中々ない感覚を持っている方ばかりなので(笑)、そういう感覚を教えてもらいながら、島の魅力をさらに魅力的に発信したいなと思ったんですよ」と江田島市に来てから制作したグラフィックデザインの数々を見せてくれた。
二人目は中町にある『喫茶のら』の女将との出会い。気が合ったのはもちろん、歳が近く家も近所ということもあり、ずいぶんと助けられたと言います。コロナ禍で時間が余り、イラストレーターやフォトショップをオンライン授業で学び直すため、週2~3回のらに場所を提供してもらい勉強。その縁から、週のほとんどを一緒に過ごすなど、精神的に支えてもらったという。「島に来てから、友達がいなかったので出会えて良かった。知り合えてなかったら、今の自分はいなかったですね」実際、今でも二人の会話はにぎやかそのものだ。
「コロナ禍でできることを考えた時、今までの市の企画の中で、ありそうで無かったものをイメージして企画を提案させてもらいました」
『江田島市民がPR大使』は市民を巻き込んで開催した最初の企画。江田島市を知らない人や来たことが無い人に、地元の人が自ら島の魅力を伝えるとLIVE感があって面白いのではないかと思ったという。当時中国地方を中心に活動していたフォトグラファーの岡本晃さんに撮影を依頼し、2日間にわたり市民の撮影会を実施。参加者には撮影データを提供、江田島市側ではその写真を広報活動で利用させてもらうという内容だ。参加者は子どもから大人まで総勢60組以上で約150人。「予想以上に集まっていただいて、私も市民の方々も笑顔で楽しめる企画でした。地元の方々だからこそ伝えることができる島の空気感を撮影することができたと思います」
その後撮影された写真は、広島市のショッピングセンターでパネル展として飾られ、江田島市民が写真を通して島の魅力をPRする良い機会になりました。これをきっかけとして、2021年からは広報えたじまと連動し、毎月リレー方式で市民の紹介記事を連載していく『ETAJIMA GoON』という企画もスタート。市民の活動や仕事を取材し紹介するもので、現在2年にわたり続く人気コンテンツとなっています。どちらの企画も『島の人が魅力』ということを伝えるために行っています
コロナウイルスの波が一時的に収まっていた2022年9月には、「ETAJIMAイマナビフェスタinみなとオアシスえたじま」というイベントを企画開催しています。イベント名は『今』の江田島市に実際に来てもらい、“学ぼう。知ろう。楽しもう。”をテーマに島を体感してもらおうと名付けています。
企画は、もともと島にあった『海辺の自然』などの学びと、IT企業の進出によって新たな学びを生み出している『プログラミング教室』を開くことをベースにした。「今の江田島を表現することがおもしろいなと。広島市や呉市など島外にPRできるし、まずは島に足を運んでもらわないと意味がない。市民の人たちにも、新しい人との交流の場を提供したいなど、いろんな思いを詰め込んだイベントでした」
裏テーマもあったようで、島の公共交通の利用促進の狙いもあったそうです。お酒を提供すれば、必然と公共交通を利用することになるので、美味しいビールが飲めることで全国的にも有名な「ビールスタンド重富」に特別出店を依頼。さらに、コロナ禍で出店機会を逃していたキッチンカーや飲食店の出店募集、発表の機会を失った学生などにステージ出演を依頼するなど、主催者としてさまざまなことに取り組みました。「大変だったけど、やっと周辺地域を結ぶイベントが開催でき、多くの交流が生まれて良かったです」と話します。
このイベントも『江田島の今を学ぶ』というコンセプトのもと、子どもから高齢者まで楽しめる、江田島市にありそうで無かったものが実現されています。約40店舗のブースが会場に集結し、コロナ禍ながら久しぶりの人の賑わいを作りました。
2023年3月に地域おこし協力隊を卒業する牛尾さん。4月からはyucaiiの本格事業化とコワーキングスペースPonte TAKATAをリニューアルし運営に携わろうと準備しています。来年度も『島にありそうで無いものをつくる』というコンセプトは崩さず、新しいコンテンツを創りたいと考えており、仕事や活動の拠点として、江田島市で過ごす時間を少しでも作りたいと話します。「性格上、卒業したから『はいサヨナラ』はできないんで(笑)」これからも、今まで出会ってきたおもしろい友人や知人、島で出会った人や縁を大切にして次のステップへ進むようです。
<2023年3月掲載>
2023年春からはyucaiiの活動を中心に、さまざまな場所で動く予定です。拠点のひとつとして、江田島でも面白い場所をオープンする計画もあるので、JOINしたい!興味がある!という人は気軽に連絡をください。
意欲があれば、どこでも何でもできます。…と思うことにしましょう(笑)。
yucaii/ユカイ
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